都内某日、「会計事務所を通して中小企業の経営改善を行い、日本経済の発展に寄与する」という志を同じくする者がここに集結した。「誰でもできる経営支援」をテーマに、MAS監査担当者と経営者を繋ぐコンテンツを開発・提供する株式会社インターフェイスの樋口氏。士業事務所の生産性・品質を上げるための組織作りを推進する「製販分離コンサルティング」を提供するイプシロン株式会社の角田氏。彼らは一様に、会計業界の限りない可能性と、明るい未来を見つめていた。

MAS監査事業化の課題
浅野:本日のテーマは「MAS監査を年商1億円の収益事業として根付かせる秘訣~どうすれば属人的な業務から組織展開できるのか~」です。株式会社インターフェイスの樋口社長とイプシロン株式会社の角田社長にお越しいただきまして、業界のために提言をいただきたいと思っています。まずは樋口社長から会社紹介をお願いします。
樋口:株式会社インターフェイスは平成19年創業の、まだ10年弱の会社です。しかし、前身の会社から一般企業向けのコンサルティング業務自体は30年続けています。30年間で1200プロジェクトのコンサルティングサービスをお客様に提供してまいりました。インターフェイスは「会計事務所を通じて中小企業を活性化する」を経営理念として掲げ、一般向けコンサルティングサービスのノウハウを会計事務所が使いやすいようにカスタマイズし、パッケージ化して提供する、いわゆるコンサルティングノウハウの卸売という変わった事業形態をとっています。我々は会計事務所にMAS監査事業化を通して、高収益かつ成長性のあるビジネスモデルを提供したいと思っています。そのためにはコンサルティングによる「成果」を企業に出していただくことが絶対条件であり、経営改善の成果をゴールにしています。パッケージ化されたコンサルプログラムを会計事務所に提供して、受注の仕方、商談の仕方、指導の仕方など、1件1件、我々が裏側でレビューをかけさせていただいております。それに対して、セカンドオピニオンとしてお金を頂いているわけではなく、あくまでも会計事務所の方に表に立っていただいています。
浅野:樋口社長、ありがとうございます。角田社長も、あらためて会社紹介をお願いいたします。
角田:イプシロンは2002年に創業した16期目を迎える会社です。実は樋口社長がおっしゃったこととまったく一緒で、我々も「士業事務所を通じた中小企業の経営改善」が理念になっています。本当は直接中小企業への改善支援で関与できればいいですが、どうしても時間に限界があります。そのため、会計事務所の改善を通じて寄与しています。ですから、私たちの一番の目的は税理士、会計士、司法書士、社労士、行政書士と言った士業事務所の改善をしていくことです。改善するためには必要なことが2つあり、1つは生産性を上げる。もう1つは業務品質を上げることです。その相反する2つの目標を同時に達成しようというコンセプトのもと、この16年間、「製販分離コンサルティング」を継続して提供しています。
浅野:当初から「製販分離」がテーマだったのですか。
角田:当初は違います。途中までは「会計事務所の組織化」が目的でした。そのときの考え方のベースは、ISO9001(会計事務所の業務品質向上)導入支援の活動です。途中から「キャッチフレーズがあったほうがいいだろう」と考えたときに、組織化するためには会社の中に存在する組織だけではなくて「機能」も分ける必要があると考え、私が勝手につくった「製販分離」という四字熟語を今、展開している…という経緯になります。
浅野:ありがとうございます。弊社、MAP経営も会計事務所のMAS監査事業を通して中小企業支援をしていきたいと考えています。もう30年以上前から会計事務所は過去会計だけでは厳しいと言われ続けながら、MAS監査事業をはじめとした付加価値事業がなかなか根付かない原因はどこにあると思いますか。
角田:私が支援している先で考えると「兼務」です。会計事務所ではあらゆる業務を兼務しています。税務会計の過去業務もあれば、MAS監査のような将来業務、雑多な経営相談もあれば、内部の庶務業務まで兼務しています。そうなると当たり前ですが、期限がある仕事をどうしても優先します。30年前から同じロジックです。税務担当者にMAS監査をやらせて進まない理由を考えたときに、いろいろな要因はあると思いますが、「兼務の問題を何とかしたい」と考えました。「組織の中で機能分担ができないと、いくらいい商品、ツールを作って売ったとしても、絶対使えないのではないか」この疑問点がイプシロンをつくった出発点です。
浅野:樋口社長は、MAS監査事業がうまくいかない理由をどのようにお考えですか。
樋口:角田社長がおっしゃるとおりだと思います。弊社のお客様でもMAS監査事業で5,000万円、1億円、2億円と売上規模が大きくなっている事務所の共通点として、最初は思い切って専任体制を敷いたところが多いですね。あるいは別会社で取り組むという分社化をしているところもあります。私自身がそうでした。元々、昭和58年ぐらいから会計業界で監査担当者をやっていましたが、今で言うところのMAS監査専門の会社に移されました。「1年間は税務顧問先にMAS監査の営業・提案をしてはいけない」と言われていたので、仕方なく飛び込み訪問をして、MAS監査業務を始めざるを得ない状況でした。そんな私の経験からも1億円以上のMAS監査事業化を目指すなら、誰かが崖っぷちに立たないと進まないと考えています。
浅野:組織体制をつくるには、トップがそうしなきゃダメですよね。担当の方々が言っているだけではダメで、やはりトップが組織体制をしっかりつくるところからだと思います。
樋口:そうですね。トップがつくる場合か、アントレプレナーが事務所の中にいて、「わたしがやります」と手を挙げるケースのどちらかだと思います。
MAS監査事業成功の条件
浅野:それでは、MAS監査事業がうまくいっている事務所は何が成功要因だと思いますか。
角田:私たちが、製販分離支援している事務所でうまくいっている要因は、先程申し上げた通りに「組織の形」がしっかりしています。過去を担当する人、将来を担当する人、専門特化分野を担当する人と、きちんと機能分けをして、組織の中で役割分担がされています。思い切って分社化している事務所は割とうまくいっていると思います。過去会計と未来会計は分けたほうがいいし、同時に取り扱うことは時間的に不可能ではないかと私は思っています。過去会計、制度会計は、正しい税金計算をするという目的のためにあり、「税務品質重視」の商品です。先送りせず、その場で税務上の問題を解決して、12回やれば決算が組めるという仕事の性質です。それに比べて、未来会計は将来の話であり、正確性よりも「スピードが優先」されます。経営は早く手を打たないと、どんどん手遅れになっていきます。それらをひとりの人間が1ヵ月の中で同時に行うのは商品の性質上、効果上不可能だと思います。だからこそ、いっそのこと機能分けをしたほうが、MAS監査業務はうまくいくと考えて、製販分離という経営改善手法を提供しています。
浅野:弊社も「将軍の日」などで、「経営のための経理」と「申告のための経理」は違う、という話をしています。樋口社長は今の点も含めて、MAS監査事業の成功要因をどのようにお考えですか。
樋口:3つあると思います。やはり「トップがやりたいことかどうか」です。トップがMAS監査事業をやりたくないのにやっても、成功しないですよね。ある事務所の所長先生から「監査担当者全員でMAS監査の勉強をさせてくれ」と頼まれたことがあります。指導した結果、20人のうち4人が背水の陣で取り組んだところ、今では売上2億円のMAS監査事業化に成功しています。だから、トップやアントレプレナーの「必ずやり遂げる」という意思が大切だと思います。それから、ノウハウをお伝えしていて自然に受注が取れていく事務所は、我々がお渡ししたロジックと営業手法を、その通りに素直に動いてくださいます。これが2つめです。そして最後の1つは、稼いだお金を投資することです。必ずMAS監査契約はとれるので、人が足りなくなります。売上が伸びてMAS監査で得たお金は、採用コストや人件費、研修費に充てる。そして人が辞めてしまったらまた投資する。売上5,000万円で組織が3~4人、中核的なMAS監査担当者ができたときに初めて、経常利益が上がります。経営というのは投資をして回収する仕事ですから、成長に伴う投資をいとわないことが大切です。
浅野:今、樋口社長がおっしゃったことの中で、本当に簡単そうに見えるけれど、実際のところなかなかできていないことが「やる」ことです。決めたことをやり遂げる実行力が、一般的な中小企業は弱いです。計画を立て、目標設定する。しかし、やりきれないところが、中小企業が中小企業たる所以だと思います。
樋口:MAS監査の売上5,000万円、1億円、2億円という会社のトップを見ると、目標達成意識が極めて高い方が多いです。それが風土に伝わっている。こちらがもういいのではないかと思うぐらい、目標達成を諦めません。達成意識が高く、常に「あと10万円」を追い掛けています。
角田:トップの決意も重要ですが、もうひとつは現場だと思います。いくら社長が5億円、10億円を達成すると言ったところで、現場が動かなければ絶対に目標達成はできません。そうなると、トップから末端までのベクトルをどう合わせるか、いかに人の心を動かすかの視点も持ち合わせていないと、職員は動きません。事業化しようと思うと、人を動かし、人を巻き込めるか、人間に興味があるかも重要です。イプシロンに相談に来られる方は多くの場合、最初は家業経営の状態です。例えば職員数は30人いるけれど、職人が30人いるだけで、実態は家業なのです。それをどう組織機能化し、効率的、効果的に活動できるかがポイントです。
樋口:我々は、やりたい人がやりたいことをやるのが一番、生産性が高いと考えています。向いていない人には無理をさせない。組織を全部変えるよりも、やりたい人に手を挙げてもらう方法をとっています。
浅野:それでは、MAS監査業務にはどのような人が向いているとお考えですか。
樋口:顧問先に対する愛情、「良くなってほしい」という思いが強い人、素直に行動することができる人です。論理性と感受性で考えると、感受性が重視されます。例えるならば、「社長と一緒に泣ける人」です。中小企業の少し動物的な感性を持っている社長が相手であり、「分からないけれどやってみるよ」と社長が言えるようなコミュニケーションを取れる方がいいと思います。そしてもうひとつは、相談する力がある人です。事務所の中にMAS監査なり経営の判断ができる方がいれば、その方に相談し、いない場合は弊社に相談してください。分からないことは1ヵ月考えても分かりません。そのため、たとえ「そもそも何を聞いたらいいか分からない」という質問であっても、相談できる人のほうが向いていると思います。
浅野:熱意があって素直で、行動的で感受性が強い…言葉で書くと簡単ですが、なかなかいないですよね。
角田:それは、各事務所がそのような人を採用していないのだと思います。過去会計に向いている人は、そのような傾向値の方ではないからです。でも組織は、いろいろな人間の集合体であり、人を活かせる場をつくるのが組織経営だと思います。会社を大きくする意義は、単に売上を上げることだけではなく、いろいろな個性を持った人間が「ここなら私も生産性に寄与できるよ」という場を作ってあげることが大切だと思います。
浅野:採用に関して、角田社長のご意見をお聞かせください。
角田:おそらくITクラウド、A.I、RPA、フィンテックの動きが進んでいくと、過去会計の分野は限りなく機械でできてしまう時代になります。そうなったときに、人工知能やフィンテックでできないところが何かというと、MAS監査事業だと思っています。人工知能の一番弱い分野は、長文読解や、相手の言っていることの裏読みだそうです。つまり、「感じる力」を一番苦手としているのです。そしてもうひとつ、人工知能が法的にもできないことは、責任を取ることです。「人工知能がこう言ったから」という言い訳は通りません。ですからきちんと責任を取れる人間が重要だと思います。最後はどうしても人間対人間です。やはり、人間に興味があるとか、好きだという人でなければMAS監査の推進は厳しいと思います。
浅野:樋口社長はいかがですか。
樋口:母数がなかなかキープできない時代だから難しいですが、目的や理念に対する共感度だと思います。採用要件は、顧問先が良くなったり、喜んでくれることに喜びを見いだせる人。また、案外、会計業界は女性のほうが優秀なことも多いです。弊社のお客様のMAS監査担当者は、育児のために一度会社を辞め、子育てを終わらせてからパートで入っている女性の方が多数活躍しています。そして、優秀な営業マンはMAS監査に向いているので、自分のところに営業に来る営業マンに、目を付けておくのもいいと思います。
浅野:樋口社長がおっしゃるように、入口は理念やビジョンに共感していないとダメですよね。経営計画をやっている事務所でも、きちんとした理念が確立していないため、理念共感型ではなく資格重視の採用活動を行っている事務所がまだまだ多いと感じます。採用・教育・評価は一体です。私の持論は、採用の比重が一番高いと思っています。
会計事務所の責任と可能性
浅野:続いて、それぞれの会社が会計事務所に提供できるソリューションを教えてください。
角田:イプシロンではやはり製販分離です。会計事務所の中で「組織機能」を作る支援を行うことです。決して税務会計が必要ないという話ではなく、それはそれで重要ですし、MAS監査はMAS監査で重要です。それぞれがきちんと事業の柱として成り立つような組織機能を作るために、人の配置や評価制度が事務所の中できちんと機能できるように支援していきたいと思います。私たちが支援している会計事務所の中で、中期経営計画をつくっている事務所は、最近増えてきて6~7割です。ほとんどの先生が経営理念と数値計画しかありません。経営理念と数値計画だけを見ても、一般の社員は何をしたいか分かりません。そのため、最初に社長の頭の中にある3年後なり5年後の組織機能を書いてもらうことから始めます。そうすると、社員も「こういう組織機能で動くんだ」とか、「私ここで役に立てるのかな」というのが見えてきます。そこに向かって事務所の課題をひとつひとつ解決していくことができます。組織図はあっても組織機能図を持っている事務所は、ほぼ0パーセントです。組織図だけでは、組織と人の機能が結びついていないので、社員は何をやっていいか分からなくなってしまうのです。
浅野:樋口社長はいかがですか。
樋口:現在、提供しているのは、あくまでもMAS監査担当者が「MAS監査ができるようになる」ためのコンテンツです。弊社が提供しているMAS監査のマニュアル、フォーマット、eラーニングとレビューを使っていただき、税務会計に代わる付加価値を担当者に発揮してほしいと考えています。弊社のテーマのひとつは「誰でもできる経営支援」です。MAS監査担当者が社長と経営のことについて何を話せばいいのか。聞かれることすべてに答えることが重要なのではなく、単年度で社長が起こすべきアクションをしっかりとフォローするためのコミュニケーションが大切です。だから、MAS監査訪問のときの30分でそれができるプログラムや、MAS監査担当者をトレーニングするコンサルマニュアルを作りました。「成長経営プログラム」といって、理念確認や現状分析から課題形成をして、外注費が課題なら外注費の削減の仕方、材料費なら材料費の削減の仕方、労務費なら労務費と、勘定科目別のコンサルマニュアルになっています。それを社長と担当者の両方が持つことで、「社長、今日は何ページを考えましょうか」とひとつの参考書として、一緒に経営改善の話し合いをすることができます。もうひとつは「集合型MAS監査」。優秀なMAS監査担当者が1人いれば、8社集合型で一度にコンサルができるやり方です。これはまだトライしてから間がないのですが、起業して間もない企業に一番反応がいい方式です。月3万円で報酬を頂いています。指導成果がしっかり出るかどうか、もうあと半年ぐらい検証しますが、受注は取れてきています。中期計画5万円、単年度計画5万円で実施して仮に10万円としても、月会費が36万円だから合計が46万円のビジネスモデルです。46万円を新設法人から頂き、なおかつ8人でモニタリングを一緒に行います。目標としては、100人来てもモニタリングができる手法を目指しています。
浅野:最後に、会計事務所に今後期待することを締めの言葉としていただきたいと思います。
角田:弊社の理念でもありますが、やはり中小零細企業が頼るところは、会計事務所だと思います。そのような意味合いでは、会計事務所がより時代に対応・進化していって、企業をより良くするための中心的な位置付けでいていただきたい、というのが我々の願いです。あともうひとつだけ言わせてもらうと、弊社が会計事務所に支援をしていく中で、改善提案している基本は、自分の会社を犠牲にして実験してきたことです。例えばマニュアルや手順書を作って、行ってきた成果を今商品として出しています。会計事務所にも自分たちの事務所改善のプロセスを中小零細企業に伝えてあげてほしいなと思います。生産性を高め、品質を良くすることは、どの業種でも重要です。教科書に書いてあることではなく、事務所として実践した結果を伝えてほしいというのが、私が一番期待することです。
浅野:樋口社長はいかがでしょうか。
樋口:角田社長がおっしゃったこととまったく同感ですが、付け加えさせていただくとしたら、自分たちに自信を持ってほしいと思っています。会計事務所が持っているコアコンピタンスは会計というデータであり考え方であり、そこに自信を持っていただきたいです。日本にある業界の中で会計業界が今、一番おもしろいと私は思います。MAS監査のマーケットは約400万社の2パーセントで、掛ける100万円として800億円でしょうか。それだけ潜在マーケットがあるので、会計の力を持っている皆さんが、コンサルセールスのやり方や、会計から現場をひも解いていく技術など、ちょっとしたことを身に付ければ新しいマーケットをどんどん切り開ける可能性があります。私は、会計事務所は新しいビジネスモデルをつくり直すときだと思います。我々は経営支援の領域で、「誰でもできる経営支援」を開発することで、お役に立てればと思います。MAS監査のもうひとつ前の工程で「ビジネスモデルを見直す」というプログラムを今年から実施していますが、会計事務所の普通のMAS監査担当者が、会社のビジネスモデルをリデザインする、いわゆる戦略コーチングができるレベルになったと思います。
浅野:税理士試験の受験者数も減っていて魅力のない業界という言われ方をすることもありますが、まだまだ捉え方によっては、可能性は十分にあるということですね。そのような業界向けにサービス提供する者として、ぜひこれからも業界発展のため、その先の中小企業発展のために力を合わせていけたらと思います。ぜひ今後ともよろしくお願いします。
プロフィール
 
上記インタビューは、株式会社MAP経営様の発行するMAP MAGAZINE(2017.5)に掲載された記事です。
株式会社MAP経営 http://www.mapka.jp/  MAPマガジン http://www.mapka.jp/topics/magazine

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